妊娠するとイライラしたり、情緒不安定になったりする事は良く知られています。実は妊娠超初期からこれらの症状が始まる方も少なくありません。いつももと違うイライラで妊娠に気がついたという方もいらっしゃいます。
「妊娠するとなぜイライラしたり情緒不安定になったりするのか」「イライラがお腹の赤ちゃんに影響を与えないか」「イライラを抑える対策はあるのか」など、プレママなら様々な疑問が湧いてくるでしょう。
そこで今回は、妊娠超初期のイライラ・情緒不安定について、このような疑問にまとめて答えていきたいと思います。イライラの原因を知って身体の変化に上手く対応していきましょう。
もくじ
妊娠超初期は身体の中で何が起きている?
まず始めに妊娠超初期とは、一般に「妊娠0~4週くらいまでの約1ヶ月間」を指します。ここで「妊娠0週っていつ?」と疑問に思う方がいらっしゃるでしょう。妊娠0週0日は最終月経の初日、つまり生理が最後に始まった日を示します。実は、まだ妊娠していない状態から妊娠周期をカウントするのです。
例えば、1月1日に最終月経が始まったとすれば、この日が0週0日、生理2日目(1月2日)が0週1日となります。そして7日間を1週として「妊娠〇週」と数えていきます。この場合、1月8日の週が妊娠1週です。
この数え方はWHO(世界保健機構)が定めた、「妊娠の正常持続日数は280日で、28日を1ヶ月、7日を1週と定め、妊娠持続を10ヶ月/40週とする」という考え方から由来しています。
したがって、妊娠超初期は最後の生理が始まった日から約28日間といえます。
また、妊娠期間は「10月10日(とつきとうか)」などと言われますが、実際には1ヶ月を28日でカウントしており、カレンダー通りの30日もしくは31日の月を含んだ10ヶ月ということではないことも覚えておきましょう。
妊娠すると身体のホルモンバランスが大きく変化する
標準的な生理周期の女性の場合、妊娠0週0日(最終月経の初日)から14日後の妊娠2週頃に排卵日がきます。ほとんどの方が排卵日と同時期に受精します。
受精卵は、約6日間かけて子宮へ到達するといわれています。子宮へ到達した時点でだいたい妊娠3週です。ここからさらに6~7日間かけて受精卵が子宮内膜へ侵入し埋没・着床が完了するのは妊娠4週頃となります。
着床が完了すると、妊娠しないと分泌されないホルモン「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」の分泌が始まります。hCGは、卵胞ホルモンの「エストロゲン」や黄体ホルモンの「プロゲステロン」の分泌を増加させていきます。
このように妊娠すると、女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)の分泌量が大きく変化します。
ちなみに妊娠検査薬が使用できるようになるタイミングは、生理予定日の約1週間後といわれており妊娠5週(妊娠2ヶ月)以降です。つまり、検査薬が使えない時期にイライラや情緒不安といった症状が見られる場合、「妊娠しているかもしれない」と捉えることができます。
妊娠超初期のイライラ・情緒不安定は、いつ・なぜ起こる?
それでは妊娠超初期のイライラはいつごろから見られるのでしょうか。
これは、早い人で着床の直後から始まると言われています。つまり受精卵が子宮に到達し、埋没するまでの妊娠3週~4週頃に起こる可能性があるのです。
妊娠3~4週は次の生理予定日の直前に該当します。女性は生理前になると、「月経前症候群(PMS)」という症状が現れることがあります。イライラしたり、感情の起伏が激しくなったりと妊娠超初期に見られがちなイライラや情緒不安定とよく似ていると言われます。
ここで、「PMSと妊娠超初期症状を見分ける方法はあるのか」と疑問に思う方がいらっしゃるでしょう。この二つの症状は非常に似ているため区別が難しいのですが、いくつか見分けるポイントがあります。
・基礎体温
妊娠すると基礎体温は高温期が持続します。一方で、生理が始まると一般的に低温期に入ります。
・着床出血の有無
妊娠している場合は生理予定日の1週間程前に着床出血が見られる場合があります。着床出血とは、受精卵が子宮内膜に着床する時に粘膜が傷ついて生じる出血のことです。
しかし妊娠した全ての人に着床出血が見られるわけではありません。
・おりものの量
妊娠するとサラサラとした水っぽいおりものの量が増えるといわれています。
・腹痛の症状
妊娠している場合、下腹部にチクチクした痛み(着床痛)が見られることがあります。
妊娠超初期にイライラや情緒不安定に加えて、上記の妊娠超初期症状が現れた場合は、PMSではなく妊娠している可能性が考えられます。
妊娠超初期に見られるイライラ・情緒不安定の原因は?
妊娠超初期に見られるイライラや情緒不安定は、前述したように妊娠によって、体内のホルモンバランスが大きく変化するために引き起こされます。
特に、黄体ホルモンには自律神経に働きかける作用があります。自律神経とは活動時に働く「交感神経」と休息時に働く「副交感神経」のことです。私たちの意志とは無関係に自律神経のスイッチが上手く切り替わることで、体内の環境が保たれています。
黄体ホルモンが自律神経に作用すると交感神経・副交感神経のバランスが乱れてイライラしたり、気持ちが不安定になったりします。
また黄体ホルモンは他にも、セロトニンやドーパミンといった脳内の神経伝達物質に働きかけます。つまり、黄体ホルモンが増えることで脳の神経が過敏になり悲しくなったり、些細なことで怒ったり、動悸がしたり、泣いたりといった心の変化が現れるのです。
他にも夜眠れなくなったり、頭痛がしたり、ひどい場合だと鬱(うつ:意欲の低下・不眠・食欲低下・不安などを特徴とした精神疾患)になることもあります。
・ホルモン変化が身体にもたらす他の影響
また、心の変化以外にもホルモンバランスが変わることで身体は様々な影響を受けます。特に妊娠超初期・妊娠初期から子宮が大きくなり、血液量が増え始めます。
その影響でお腹の張りや胃の痛み、頻尿、身体のむくみといった症状が見られるのです。
このように心の変化や身体の変化によって見られる症状は全て、妊娠によってホルモンの分泌量が変わることで、もたらされる生理現象なのです。
・イライラや情緒不安定が胎児に与える影響は?
一方で、ホルモンの影響だとは分かっていても「妊娠中にこれだけイライラしていたら、お腹の赤ちゃんに悪い影響を与えてしまうのではないか」「イライラが原因で流産したらどうしよう……」などと不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私たちはイライラすると、身体を守ろうとしてストレスホルモンの一種である「アドレナリン」が分泌されます。アドレナリンには血管収縮作用があり胎児が栄養不足に陥る可能性があります。
しかし、よほど大きなストレスを受けない限りアドレナリンが大量に放出されることはないので心配いりません。
あれこれ心配するよりも、お腹の赤ちゃんの生命力を信じてイライラ・情緒不安定と上手く付き合っていくことが大切です。
妊娠超初期のイライラ・情緒不安定への対処法は?
それでは妊娠超初期や妊娠初期に見られるイライラや情緒不安定を解消する方法について確認していきましょう。以下のような対策が挙げられます。
- 太陽を浴びる
- 愛情ホルモンを分泌させる
- 十分な睡眠をとる
- 美味しい物を食べる
- お腹の赤ちゃんの性別を予想してみる
- 友達に会う
- 漢方薬を服用する
それぞれについて見ていきましょう。
・太陽を浴びる
太陽の光には、ふさぎ込んだ気分を改善したりリラックスさせたりする効果があることがわかっています。
また、樹木からは「フィトンチッド」と呼ばれる芳香物質が放出されており、心が落ち着く効果があります。
朝起きてテラスで太陽光を浴びたり、仕事の休憩時間などを利用したりして、お天気のいい日に木々のある公園を散歩してみてはいかがでしょうか。
・愛情ホルモンを分泌させる
愛情ホルモンの一種である「オキシトシン」にはストレスを軽減させる効果があります。オキシトシンはスキンシップや動物との触れ合いなどで分泌が増加します。
夫婦間のスキンシップを大切にしたり、動物を撫でたりしてオキシトシンを増やしましょう。
・十分な睡眠をとる
睡眠時間が足りていないと、イライラしやすくなってしまいます。十分な睡眠時間は人によって違いますが、一般的に7時間が最適といわれています。
アメリカで実施された大規模な調査によると「平均睡眠時間が7時間の人が最も病気になりにくく、長寿であった」というデータが得られています。
一方で「妊娠してから夜眠れない」という方もいらっしゃるでしょう。前述した通り自律神経が乱れて不眠症を引き起こす場合があります。
そんなときは、朝起きて1時間以内に朝日を1分以上浴びるようにしましょう。朝日を浴びることで生体リズムが整うようになります。
また、日中にイライラが止まらなかったり、気分がふさぎ込んだりしたときは横になったり昼寝をしたりして身体を休ませましょう。
・美味しい物を食べる
イライラしたときは、好きな物や甘い物を食べると気分が落ち着きます。つわりが始まると食欲がなくなるかもしれません。妊娠超初期の間に少し奮発して美味しい物を食べに行ってみてはいかがでしょうか。
また、空腹時にイライラしやすいことは経験的に誰もが知っていることでしょう。例え忙しくても食事の時間をきちんと確保しましょう。
・お腹の赤ちゃんの性別を予想してみる
科学的な根拠は全くありませんが、「イライラや感情の起伏が激しい場合、お腹の赤ちゃんは女の子」といわれることがあります。女の子を出産したママの中に「妊娠中のイライラや感情の起伏が激しかった」という声が多く挙げられることから、ジンクスの一つとして考えられています。
お腹の赤ちゃんの性別を予想するのは、妊娠中の楽しみの一つでしょう。「イライラするのは女の子のサインかも」と想像すると感情の起伏を受け入れられるのではないでしょうか。
・友達に会う
働いている場合や、2人目・3人目の妊娠ともなると上の子の育児のため、妊娠中に自分の時間を確保することはなかなか難しいものです。
しかしイライラして子どもを怒鳴ったり、旦那さんに八つ当たりしてしまったりするくらいなら、家族と離れる時間を設けましょう。仲の良い友達、気持ちを共感できる妊婦友達やママ友達に会って話を聞いてもらうだけで意外とスッキリするものです。
友達に会うのが難しい場合は、1人でショッピングに行ったり映画を見たり趣味に没頭したり、と気分転換をしてみましょう。自分の時間をつくることが大切です。
・漢方薬を服用する
妊娠中は薬を飲まないに越したことはありません。しかし、上記のいずれを試しても効果がなく、イライラ・情緒不安定の影響で日常生活に支障をきたしている場合は病院に行って漢方薬を処方してもらうことができます。
「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」という漢方薬は、不眠や不安・胃炎に効果があり、妊娠中のつわりを改善するためにも用いられます。
半夏厚朴湯はドラッグストアでも購入できますが、上の添付文書にも示した通り妊娠中の投与に関する安全性は確立していません。「妊娠中は有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ服用」と書かれているので、服用については自己判断ではなく医師に判断してもらいましょう。
まとめ
妊婦のイライラや情緒不安定というのは、妊娠超初期だけのものではありません。妊娠中は多かれ少なかれ、ついて回るものです。そのため、「イライラしちゃう自分が悪い」と自分を責めたりせずに「ホルモンの影響だから仕方がない」と開き直ることも大切です。
また旦那さんには、妊娠による一時的な変化であること、ホルモンバランスの変化によって起こっていること、自分ではどうしようもないことなど、よく話して理解してもらうようにしましょう。
イライラや情緒不安定はストレスを発散することで上手に向き合うことができます。そのためには友人と会ったり、趣味の時間に費やしたりして自分の時間を確保しましょう。
また空腹、睡眠不足、ストレスを溜めこむなどイライラしやすい環境を作らないようにすることも大切です。
「イライラや情緒不安定は妊娠している証なんだ」と思って上手く乗り越えましょう。