「女性は結婚あるいは妊娠したら退職する」というのが当然とされた一昔前とは異なり、産休・育休を取得して仕事に戻る女性が増えてきました。

ただ、依然として妊娠中の体調不良や出産のライフスタイルの変化によって仕事を辞めざるを得ない女性が数多く存在します。そのきっかけの一つとして、つわりが挙げられます。

主に妊娠初期に生じるつわりでは、倦怠感・胃の不快感・吐き気・頭痛・めまい・嘔吐・眠気などの症状が出ます。ひどい時には、立ち上がることさえおぼつかなかったり、吐き続けて1日中トイレから離れられなかったり、症状が悪化して入院を余儀なくされたりすることもあるのです。

しかし妊娠を経験していない女性や男性が職場に多いと、つわりで仕事を休むことに難色を示されることも少なくありません。同僚や上司から「甘えている」と思われているのではないか、「同僚に迷惑をかけてしまう」と罪悪感を抱えている方も多いでしょう。

そこで今回は、つわりで仕事を休まなければならない場合に、伝えるときのコツや事前準備、理解が得られない場合の対処法についてお話ししたいたいと思います。

つわりで仕事を休む前に、会社への妊娠報告が大前提

あなたは妊娠が分かった時点で上司に妊娠の報告をしているでしょうか。「そんなプライベートなこと上司わざわざ報告するのもどうか」と思うかもしれませんが、妊娠したことを早めに会社に伝えなければ大きな迷惑をかけてしまう可能性があります。

例えば、あなたが妊娠初期の段階で重症な妊娠悪阻(にんしんおそ:重度のつわりのこと)や切迫流産(流産しかかっている状態)・切迫早産(早産しかけている状態)などで緊急入院しなければならない場合だってあるでしょう。

あらかじめ妊娠を伝えていたなら、人員の補充がスムーズに行われるかもしれませんが、急に入院で仕事を休まないといけない場合、同僚や上司に負荷がかかってしまいます。

つわりで休む必要があるときに、初めて妊娠の報告をするのでは遅すぎます。

したがって、妊娠が判明したらなるべく早く会社に妊娠の報告をしましょう。ただ妊娠初期は流産の可能性もあるので、胎児の心拍を確認できてから、あるいは妊娠10週以降まで待ってもかまいません。

妊娠報告の伝え方のポイントは?

上司に妊娠の報告をする場合に、どのように伝えていいか分からないという方も多いのではないでしょうか。

特に妊娠経験のない女性や男性上司に報告するときは、ただ妊娠の事実を伝えるのではなく具体的な説明を加える必要があります。

「これくらい知っているのでは?」で済ませるのではなく、自分が妊娠したことによって生じる症状やリスクを客観的な数字やデータなどを交えて、わかりやすく伝えるのが重要です。

伝えたいポイントを以下のように整理しました。

  • つわりの諸症状について
  • 既につわりがあるなら、自分の症状について
  • つわりの時期の始まりは妊娠4~7週、ピークは7~10週辺り、14~16週に入ると落ち着く人がほとんど
  • 妊娠中は仕事の能率が落ちる可能性があること
  • 無理をすると、重大事につながりかねないということ
  • 急に休むときが出てくるかもしれないこと

このように事前に説明しておくことで、「いざ、つわりで休みたいとき」でも上司に理解してもらえやすくなります。

これらを踏まえて、「迷惑をかけるかもしれないが仕事も頑張るので協力して頂きたい」という真摯な気持ちを上司に伝えましょう。

また、上司だけでなく、自分の仕事をフォローしてくれる同僚にも説明しておくことが大切です。全員に話す必要はありませんが、あなたが信頼する人や妊娠・出産の経験がある先輩などに話しておくと、何かと助けになってくれます。

つわりで休むことはできるのか?その基準は?有給消化になる?

つわりを理由に仕事を休むことは妊婦として当然の権利です。しかし、「どのくらいのつわりなら仕事を休めるのか……」というのは、中々判断がしにくいものです。

つわりの感じ方は個人差があるので絶対的な基準は存在しません。ただ、日本産婦人科学会が「重度のつわり」として定めている基準は以下の通りです。

  • 一日に何度も苦痛を伴う吐き気や嘔吐がある
  • 十分な食事が摂れず体重が減っている
  • 冷や汗・頭痛・強い倦怠感がみられる

このような症状がみられる場合は、無理をせず病院へ行って点滴の治療を受けたり、自宅で安静に過ごしたりしましょう。

また、つわりで休む期間や頻度も気になる方が多いでしょう。つわりの症状は人それぞれなので「これくらいの頻度ならOK」「これくらいの期間、何日間なら許される」といった基準は存在しません。

「自分では判断できない」という場合は、産婦人科の医師と相談して決めましょう。

つわりで会社を休む場合は有給消化になる

つわりで仕事を休む場合は、有給休暇を消化することになります。あらかじめ有給休暇を取得できる日数をよく調べておきましょう。全ての有給を消化してしまうと越えた日数分は病欠あるいは欠勤扱いとなり、給料から差し引かれてしまいます。

しかし「お給料が減ってしまうのであれば働かないと生活費が稼げない……」と無理をしてはいけません。病欠や欠勤になってしまう場合でも、会社の健康保険に加入していれば「傷病手当金」が支給されることがあります。

パートやアルバイト・派遣であっても、あなたが勤務先の健康保険に加入していれば手当の対象となります。

つわりがひどい!電話でお休みを伝えるときのコツ

働いている妊婦さんの職業はそれぞれ違うので、環境や状況も異なります。ただ、どんな職場であっても人員が一人減ると誰かがあなたをフォローしなければならず、迷惑がかかってしまうのは事実です。

特に現場での人手不足が深刻な保育士・看護師・介護士さんなどは、休むことをためらってしまうことも少なくないでしょう。しかし、罪悪感や申し訳ない気持ちから無理をして働いてはいけません。

ここでは、「つわりで仕事を休む場合の連絡のコツ」についてお伝えします。

「つわりがひどい」と正直に伝える

「つわりで休むなんて甘い」と思われることをためらい、つわりを隠して休む方がいらっしゃいます。しかし、つわりがひどい場合は正直に伝えましょう。

嘘をついてしまうと、それをごまかすためにまた嘘を重ねなくてはならなくなります。だからといって、「どれだけ辛いか」など、つわりの症状を事細かに説明する必要はありません。風邪で会社を休むのと同じように、「つわりがひどいので休ませてください」と簡潔に伝えるだけで大丈夫です。

そこで、症状などを尋ねられた場合は答えるようにしましょう。

「申し訳ない」という気持ちと感謝を伝えること

残念ながら、あなたの状況を理解して快く休みを受け入れてくれる上司や会社ばかりではありません。

嫌味を言われたり、対応が冷たかったりと肩身の狭い思いをすることが多いと思います。「妊娠することがそんなにいけないことなのか」と憤ることもあるでしょう。しかし、イライラしても余計に身体にストレスがかかってしまうだけです。

嫌味や冷たい言葉は上手く受け流して、赤ちゃんが生まれてくることの喜びに意識を向けてください。ただし、「妊娠しているのだから、つわりで休むのは当然」という態度は良くありません。

特に、あなたが「産休・育休後は職場に復帰したい」「産後もキャリアアップしたい」「上司や同僚といい関係のままでいたい」と考えているなら、低姿勢を貫きましょう。

何を言われても、「いつもご迷惑をおかけしてすみません」と申し訳ない気持ちを伝え、「ご理解頂きありがとうございます」といった感謝の気持ちを伝えることが重要です。

女性は妊娠中だけでなく、産後や子育てに関しても何かと周囲から圧力を受けます。細かいことをいちいち気にしていたらワーキングマザーはおろか、たくましい母親になれません。

妊娠中からママとして強く、ある意味で図々しくなることが必要です。妊娠中のつわりは「あなたを強くするための訓練のようなもの」と考えてみてはいかがでしょうか。

会社の理解を得られない場合の切り札がある

「つわりで仕事を休ませてください」「身体への負担が大きいので仕事を軽減させてください」と上司に依頼するのは勇気のいることです。

妊娠・出産経験のない女性や男性が上司の場合はなおさらです。「妊娠を理由に甘えている」「ただ楽をしたいだけだろう」と思われるのも嫌だと思います。中には罪悪感を覚える方もいらっしゃるでしょう。

しかし、あなたの身体には小さな命が存在しており、母親として守らなければなりません。無理をして流産や早産を招いてしまっては取り返しがつきません。

そこで、これまでと同じように仕事をすると「身体に負担がかかる、あるいは仕事上での精神的ストレスによってお腹が張るなどの症状がみられる」にも関わらず、会社の理解を得られない場合は「母性健康管理指導事項連絡カード」や「医師の診断書」の提出を検討しましょう。

母性健康管理指導事項連絡カードの活用

母性健康管理指導事項連絡カードとは、「主治医等が行った指導事項の内容を、仕事を持つ妊産婦から事業主へ明確に伝えるのに役立つカード」のことです。

例えば、妊娠中に「仕事を減らした方がいい」「通勤時間や通勤手段を変更した方がいい」など、医師の指導受けたとき、その旨をカードに記入してもらって、それを会社に提出することができます。

会社(事業主)は妊娠中の女性が病院から指導を受けた場合は、「通勤の緩和や休憩・休業といった事項に適切に対応しなければならない」と法律で定められています。

母性健康管理指導事項連絡カードのフォーマットは、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。また、自治体によっては母子手帳にも添付されているので確認してみてください。

医師に診断書を発行してもらう

診断書とは患者の健康状態や病気について診断し、その結果を記載する書類のことです。

例えば、切迫流産や切迫早産・妊娠悪阻・妊娠高血圧症候群といった病名が付いた場合は、医師にお願いすれば診断書を作成してくれます。

この診断書を会社に提出すれば、休職も可能です。健康保険から傷病手当金も支給されます。

無理をして仕事をしているという方は、このようなカードや診断書を会社に提出して、適切な対応をとってもらうことをおすすめします。

私の友人にも、妊娠中の仕事のストレスが原因で流産してしまった子がいます。その子は結局転職して、2人目のとき無事に妊娠・出産しました。

彼女がもし1人目の妊娠中に母性健康管理指導事項連絡カードや診断書を会社に提出して、休職あるいは仕事の軽減措置をとってもらっていれば流産せずに済んだかもしれません。

医師の力を借りて権利を主張することに躊躇する方もいらっしゃるかもしれませんが、お腹の赤ちゃんを無事出産するためには必要な場合もあります。

注意点として、母性健康管理指導事項連絡カードや診断書を作成してもらうには、病院へ行き医師に診てもらわなければなりません。もちろん、何の症状や不調もないのにカードや診断書の記入をしてもらうことはできません。

また、数千円程度のお金も必要になります。

まとめ

つわりで仕事を休むときに少しでも迷惑をかけないために、まずは妊娠したらなるべく早く妊娠報告を済ませておきましょう。そのときに、つわりの症状や期間、無理をした場合のリスクなどを細かく説明しておくことが重要です。

事前に説明しておくことで、いざ休むとなったときに上司の理解を得やすくなります。そのときは簡潔に伝えること、申し訳ない気持ちと感謝の気持ちを伝えることも忘れないようにしましょう。

また、つわりで仕事を休む場合は有給消化になるのであなたの有給があと何日残っているかを事前に調べて、妊婦健診なども考慮して逆算しておくと良いです。

一方で、「会社を休むことに難色を示される」「休みを受け入れてもらえない」という場合は、母性健康管理指導事項連絡カードや医師の診断書を会社に提出することをお勧めします。私の友人のように流産してから悔やんでも取り返しがつきません。

最優先すべきはお腹にいる赤ちゃんです。仕事のことは深く考えずに、今はあなたの体調とお腹の赤ちゃんの健康を最優先にしてください。