女性にとって、バスタイムは貴重なリラックスタイムでしょう。お風呂に浸かってゆっくり手足を伸ばして、1日の疲れを取る方も多いのではないでしょうか。

しかし、妊娠中のプレママさんにとってはこの至福のひと時が苦痛になるケースがあります。お風呂に入ると、動悸がしたり、気持ちが悪くなったり、吐き気を覚えたりする、といったことがネット上でも多く寄せられているのです。

特に、このような悩みは妊娠初期のプレママに多い傾向があります。「妊娠前はお風呂が大好きだったのに急にどうして?」と戸惑う妊婦さんもいらっしゃるでしょう。

なぜ、妊娠中は入浴時に動悸や気持ち悪さが生じるのでしょうか。今回は、多くの妊婦さんの不安を取り除くべく、この理由と対処法について紹介していきます。

妊娠中のお風呂!動機や気持ち悪い感じがする理由とは?

入浴中、急に生じた症状の原因が分からないと誰でも不安になるでしょう。妊娠中のお風呂で動悸や気持ち悪い感じがする理由には以下のようなものがあります。

  • つわりによるもの
  • 自律神経の乱れによるもの
  • 長風呂・身体の温めすぎによるもの
  • 水圧でお腹が圧迫されるため
  • 貧血によるもの

順にみていきましょう。

つわりによるもの

つわりは妊娠初期のだいたい妊娠5週くらいから始まり、ピークは7~9週頃といわれています。そして、つわりが治まってくるのがだいたい妊娠12~16週頃です。

つわりは妊婦さん全体の約80%が経験しているといわれます。妊娠によるホルモン分泌の変化、自律神経の乱れ、精神的・体質的な要因などが合わさって引き起こされると考えられています。つわりを全く感じない人もいれば、妊娠後期までずっと続く人もいるなど、個人差も大きく実際のところ詳しい原因はわかっていません。

つわりの時期に突入すると、「眠気が止まらない」「食べ物の嗜好の変化」「鼻が敏感になる」など体調が大きく変化します。

特に、「匂いに過敏になる」という現象は多くの妊婦さんが感じることではないでしょうか。私はつわりがほとんどなかったのですが、鼻が敏感になって困りました。ご飯の炊ける湯気や、満員電車の中の体臭、たばこの臭い、アルコールの匂いなど、妊娠前は気にも留めなかった様々な匂いに対して敏感になり、気持ちが悪くなってしまいました。

入浴時も同様に、ボディーソープや石鹸、シャンプーなどの香りが原因で気持ちが悪くなることがありました。

このように、つわりの時期は鼻が敏感になって入浴時の湯気の匂い・シャンプー石鹸などの匂いがきっかけとなって気持ち悪さを誘発している可能性があるのです。

自律神経の乱れによるもの

妊娠中はホルモンバランスの変化で自律神経に影響が生じることがあります。自律神経とは興奮状態のときに働く交感神経、リラックス時に働く副交感神経のことです。これらの神経が上手く切り替わることで身体の環境が整えられています。

しかし妊娠してホルモンバランスが変化すると自律神経が乱れ、これが動悸・頭痛・吐き気・めまいなどの原因になることがあります。特に、つわりの時期は自律神経の不調が起こりやすいといわれています。

入浴中は体温が上がりやすい状態です。ここで、自律神経が乱れていると身体の体温調整機能が上手く働かないため身体がどんどん熱くなり、のぼせや吐き気・頭痛といった症状を招きます。ただ、これらの症状は一時的なもので、しばらくたつと症状が治まるケースがほとんどです。

長風呂・身体の温めすぎによるもの

「妊婦は絶対に身体を冷やしてはいけない」などを、よく聞くと思います。私も妊娠初期から腹巻きを巻いたりしてお腹周りを冷やさないように気をつけていました。

身体を冷やすのは厳禁ですが、一方で温めすぎるのも良くありません。特に入浴中は血行が促進されるため、心臓に戻る血液量が増して動悸や息切れなどが生じやすくなります。長風呂や熱いお湯に浸かるのは止めましょう。

さらに子宮という器官は、「熱による影響を大変受けやすい」と言われています。そのため、熱いお湯や長風呂などで身体を温めすぎると必要以上に血流が増え、子宮の収縮が激しくなってしまうことがあるのです。

急な子宮の収縮は、流産や早産のリスクを高める可能性もあるので、妊娠中の入浴は、長風呂は避け、湯温も高くしすぎないように気をつけましょう。

水圧でお腹が圧迫されるため

「お風呂の水圧がお腹に影響するのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。実は湯船に首まで浸かると身体全体に約1トンもの水圧がかかるといわれています。この水圧によって身体の末端に溜まった血液が押し戻されて心臓の働きが活発になるのです。

妊娠中は、ただでさえ子宮が大きくなり、下腹部から上に押し上げている状態です。ここに水圧が加わることで、さらにお腹が圧迫されて腹痛を招いたり、気持ちが悪くなったりします。さらに心臓へ戻る血流量が増えるため動悸や呼吸が苦しくなる、といった症状を引き起こすのです。

貧血によるもの

妊娠中は多くの妊婦が「鉄欠乏性貧血」に陥りやすくなります。鉄欠乏性貧血とは、血液中に鉄分が不足して生じる貧血のことです。妊娠すると、お腹の赤ちゃんの成長のためにより多くの血液が必要になります。

そのため、体内の血液量自体は増加するのですが、赤血球や鉄分といった血液の成分の生産が追い付かず薄い血液になってしまうのです。

前述した通り湯船に浸かると水圧によって血行が促進されて全身に血液が行き渡るのですが、湯船から立ち上がると重力の影響で血液が身体の下の方に流れます。その結果、脳に十分な血液が行き渡らくなり、めまい・ふらつき・貧血といった症状を引き起こすのです。

貧血気味の妊婦さんが長湯をすると、貧血が悪化してフラフラしたり気持ちが悪くなったりしてしまいます。

このように妊娠中のお風呂は上記のような原因によって気持ちが悪くなったり動悸がしたりします。

ここで、「妊娠中はずっとシャワーだけでいいのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、湯船に浸かることで得られるメリットもあります。

例えば、湯船に浸かっている間は浮力によって身体の重さが軽くなるため体重を支えている筋肉や関節を休ませることができます。したがって腰痛や肩こり、むくみを和らげることが期待できます。また、リラックス効果があるため疲れがとれたり気分が落ち着いたりします。

さらに妊娠中は血液量が増えるため、留まった血液がコブとなりを生じやすくなります。痔はお尻を清潔にすること、血行を良くすることで改善が期待されます。

そのため痔で悩んでいる場合は湯船に浸かった方が早く治る可能性があります。しかし痔の部分が熱をもっている場合はお湯に浸かるのは控えた方がよいでしょう。

このように湯船に浸かることで得られる健康上のメリットもあるため、毎日シャワーで済ませればいいというわけではありません。自分の体調に合わせた上できちんと対策をとって入浴すれば身体によい効果が得られます。

入浴前・入浴時に気をつけるべきこと、対策について

それでは、「妊娠中のお風呂で体調を悪くさせないためにできる対策や気分が悪くなった場合の対処法」について紹介しましょう。

妊婦さんがお風呂に入る上で気をつけるべきことや対策については以下のようなものがあります。

  • お風呂に入る時間帯や頻度
  • 湯船の温度設定と浸かる時間
  • 入浴前後は水分補給を
  • 匂いの強い身体洗剤・入浴剤は使わない
  • 転倒に注意
  • 急激な温度変化に注意
  • 体調不良の場合は入らない

順に説明していきましょう。

・お風呂に入る時間帯や頻度

お風呂に入るときは万が一のことを考えて誰か家族がいる時間帯に入りましょう。1人の時間帯に入る場合は、お風呂に入る前に家族に「今からお風呂に入るから出たら連絡します」などとメールをしておくと安心です。

また、空腹時の入浴は控えましょう。入浴には体力が要るため空腹の状態で入ると低血糖や貧血を招きやすいといわれているからです。

続いてお風呂に入る頻度についてですが、日本人の場合は「お風呂は毎日入るもの」と思い込んでいる方が多いかもしれません。しかし他国では妊娠していなくても「お風呂は2日に1回」なんていうことは普通です。

つわりで体調がすぐれないとき、お腹が張ってしんどいときなどは入浴をスキップしましょう。顔を洗面所で洗って他は濡れたタオルでサッと拭くだけで十分きれいになります。

・湯船の温度設定と浸かる時間

湯船の温度設定は、ぬるめの37度から高くても40度程度に抑えましょう。前述した通り高い温度の湯船に浸かるとのぼせや動悸、子宮収縮など身体に負担がかかってしまいます。

また、湯船に浸かる時間は10~15分程度で済ませるようにしましょう。前述した通り水圧によるお腹の圧迫を避けるために、浸かるときは肩まで浸かるのではなく、みぞおちあたりを目安にお湯を張りましょう。

・入浴前後は水分補給を

入浴中は汗をかきやすく脱水症状に陥りやすいので注意が必要です。特に、妊娠すると女性ホルモンの作用で水分を蓄えようとする作用が働きます。そのため身体が多くの水分を必要とします。

したがって妊娠中の入浴は入浴前・入浴後にしっかり水分を補給しましょう。もしも水分を摂取できないくらい気持ちが悪いという場合はお風呂に入るのは控えた方がよいです。

・匂いの強い身体洗剤・入浴剤は使わない

つわりが強い時期は鼻が敏感になるので、極力香りの強いシャンプーやリンス・ボディーシャンプー・洗顔等は使わないようにしましょう。

女性の場合、香りを楽しんで使っている方が多いと思いますが、それで気持ちが悪くなっていては意味がありません。

また、入浴剤選びについても注意が必要です。炭酸ガスを発生させる「バブ」や「きき湯」、温泉成分に近い成分が配合された「バスクリン」、ハーブやラベンダーなどのアロマの香りを楽しむ商品などバラエティー豊かな入浴剤が販売されています。

妊娠中に使ってはいけない入浴剤は特にありませんが、とろみのつく入浴剤は湯船から上がるときに転びやすくなるので気をつけなければなりません。また、ソルト系の入浴剤は肌への刺激が強いので、妊娠中の敏感な肌にはピリピリ感じる可能性があります。さらに発汗作用を謳った入浴剤は、発汗成分によって脱水症状を招く危険があります。

妊娠前までずっと使用していた入浴剤であっても急に肌に合わなくなったり、香りが気持ち悪いと感じたりすることがあります。無理して使用しないようにしましょう。

・転倒に注意

入浴中に動悸やめまいなどでフラフラになったとき、お風呂場や脱衣所で転倒する危険性があります。

湯船に浸かった場合は急に立ち上がらないようにしましょう。前述した通り、湯船から立ち上がるときにめまいや貧血を生じやすいからです。ゆっくりお風呂から上がるようにしましょう。

また、浴室・脱衣所には滑り止めのマットを敷いて転倒しないように対策をとることをお勧めします。

・急激な温度変化に注意

脱衣所と浴室の温度差が激しくなると、急な温度変化に身体が反応して急激な血圧上昇・血圧降下が生じます。これによってめまいや頭痛・吐き気・動悸などが生じます。妊娠中はただでさえ自律神経が乱れて体温調節機能が上手く働かないため、温度差による影響を受けやすいのです。

部屋の温度差が大きくならないように、冬は脱衣所を暖房器具で暖めて、湯船に浸かる時は足からゆっくり入るようにしましょう。

・体調不良の場合は入らない

風邪や微熱、頭痛など体調がすぐれないときは湯船に浸かるのは避けましょう。「身体を温めたい」と思うかもしれませんが、気分が悪くなりやすいため妊娠中は危険です。

シャワーをサッと浴びる、あるいはお風呂はパスしてゆっくり休むようにしましょう。

入浴中に体調不良に陥った場合の対処法について

また、入浴中に体調不良に陥ることもあります。例えば、以下のような状況です。

  • のぼせや動悸、めまいなどの症状が現れた場合
  • 鼻血が出た場合
  • お腹が張った場合

それぞれ確認していきましょう。

・のぼせや動悸、めまいなどの症状が現れた場合

頭がフラフラしたり心臓がドキドキしたりして「おかしいな」と感じたら、絶対に無理をしないでゆっくりお風呂から出て横になりましょう。

また、脱水症状に陥っている可能性があるので経口補水液あるいは常温のお水を飲んで水分補給をしましょう。

特にのぼせを感じた場合は、温まりすぎた血液を少し冷ます必要があるので、首筋・脇の下・足のつけ根にある太い血管を保冷剤や氷をタオルに巻いて冷やすとよいです。

・鼻血が出た場合

お風呂に入ると血行が促進される上、妊婦さんは血液量が多いため鼻血が出やすくなります。鼻血が出た場合はお風呂から上がって、正面を向いてほんの少し上向きの状態で座りましょう。

そして鼻をつまんで血管を圧迫すると5分程度で血が止まります。また、鼻を冷やすことで血管が収縮されるため止血効果が期待できます。

・お腹が張った場合

妊娠中にお腹が張ることはよくあることなので、入浴中に張ったからといって心配する必要はありません。

しかし、人によっては湯船に浸かると必ずお腹が張るケースや入浴中ずっとお腹の張りが続くことがあります。その場合、湯船に浸かるのは止めてシャワーで済ませる、あるいはお風呂をスキップするようにしましょう。

入浴中にお腹の張りが続いた場合、お風呂から上がって横になり「シムス体位」をとるようにしましょう。シムス体位とは、左側を下にして横になる姿勢のことで、妊婦さんの身体の負担を減らせます。縦長のクッションを利用して「上半身の右側を、クッションの上に覆いかぶさるようにする」ことで、簡単にシムスの体位をとることができます。

まとめ

入浴中に気持ちが悪くなるという方は、ここで紹介した湯船の温度設定・お湯の量・時間などに気をつけて湯船に浸かるようにしましょう。また脱水症状や転倒には十分に注意してください。

妊娠中は無理にお風呂に入ろうとしない方がいいです。お風呂は一人になってリラックスできる時間である一方、転倒などの危険がある場所でもあります。

ただ、湯船に浸かるメリットもたくさんあります。自分の体調に合わせて無理をしない範囲で入浴を楽しみましょう。