待望の赤ちゃんがお腹に宿ったとき、誰しもが願うことがあります。それは、「我が子が元気に無事に生まれてきてほしい」ということです。

私も初めて子どもを授かったとき、喜びと共にとにかく無事に生まれてきてほしいと願いました。このとき、妊娠・出産に関する本の中で葉酸の重要性について知っていたため、妊娠前に限らず妊娠中も葉酸サプリを飲み続けていました。

それではなぜ、妊娠中に葉酸が必要なのでしょうか。また、葉酸サプリを飲む際にどのような点に気を付けると良いのでしょうか。

今回は、葉酸サプリも活用して葉酸を摂りたいと考えている妊婦に向けて、葉酸の重要性と葉酸サプリの上手な飲み方について解説していきます。

葉酸が不足するとリスクが高まる神経管閉鎖障害

赤ちゃんの体で最も早く作り始められる器官はどこであるか、ご存知でしょうか。それは、中枢神経系である脳や脊髄です。神経系が最初に作られるのです。

妊娠3週目頃に神経板が作られ、妊娠6週目頃には神経管が作られます。つまり、お腹の中の赤ちゃんの脳と脊髄の原型は妊娠6週までに作られるのです。

このとき、神経が作られるときに異常が起こると神経管閉鎖障害という病気を発症するようになります。神経管閉鎖障害については、母子手帳に以下のような記載があります。

神経管閉鎖障害とは、赤ちゃんができてくる初期の段階で形成される脳や脊椎のもととなる神経管と呼ばれる部分がうまく形成されず、きちんとした管の形にならないことに起因しておこる障害であり、遺伝などを含めた多くの要因が複合して発症するものです。

このとき、妊娠前後に十分な葉酸を摂取すると、二分脊髄や無脳症などの神経管閉鎖障害の発症リスクが大幅に軽減されることがわかっています。諸外国では早くから、国レベルで葉酸の摂取を推奨しています。

海外の妊婦における葉酸摂取状況

葉酸の摂取については、海外の研究が進んでいます。葉酸の摂取状況は、以下の通りです。

国名勧告値(1日)勧告内容
アメリカ0.4mg以上食品、強化食品、サプリメント
イギリス0.4mg以上葉酸を多く含む食品、葉酸強化食品、0.4mgサプリメント
オーストリア0.5mg以上葉酸を多く含む食品、0.5mgサプリメント
オランダ0.5mg以上0.5mgサプリメント
中国0.4mg以上サプリメント

引用:厚生労働省の神経管閉鎖障害の発症リスク低減に関する報告書より 平成12年

この表からわかるように、多くの国で葉酸を重視し、国レベルでも葉酸サプリや錠剤、葉酸強化食品の使用を推奨しています。   

中でも1987年にイギリスなど7カ国が参加して行われた大規模な臨床実験において、「葉酸の摂取により神経管閉鎖症のリスクを72%軽減することができた」と報告されました。

これが、葉酸の重要性を認知させる大きなきっかけとなりました。

他国に比べ、閉鎖症(二分脊椎)の少なかった日本では、これまで葉酸について、海外に比べるとあまり注目されていませんでした。ただ、このような海外の情勢から、2002年から母子手帳にも葉酸に関する記載が始まりました。

これは、私の母子手帳です。この中には、以下のような記載があります。

葉酸をとりましょう

妊婦の健康と胎児の健全な発育のためには、多様な食品を摂取することにより、栄養のバランスを保つことが必要です。二分脊椎などの神経管閉鎖障害の発症を減らすには、葉酸の摂取が重要であることが知られています。

葉酸は、ほうれんそう、ブロッコリーなどの緑黄色野菜やいちご、納豆など、身近な食品に多く含まれています。日頃からこうした食品を多く摂るように心がけましょう。

栄養素について、単独で記載されているのは葉酸のみです。このことからも海外の動きに見習い、日本でも葉酸摂取が重要視されていることが伺えます。これから、母子手帳を受け取られる方、または妊娠中でお持ちの方はぜひ確認してみましょう。

神経が完成してからも葉酸がいる

ただ、葉酸は妊娠初期のみに必要なわけではありません。その後も継続的に葉酸を摂り続ける必要があります。

妊娠中、気になることの一つは貧血ではないでしょうか。実は、葉酸は別名「造血ビタミン」と呼ばれ、ビタミンB12と共に赤血球の生産に関わるビタミンです。

妊婦が貧血を起こすと、胎児には発育不全や早産のリスクが高まります。赤ちゃんに栄養や酸素を運ぶのは血液だからです。また、貧血により妊婦自身も疲れやすくなってしまいます。こうした悪影響があるため、造血ビタミンである葉酸を補給することが大切です。

私も妊娠中は貧血予防の意味でも、葉酸サプリメントを飲み続けました。おかげで貧血にならず、無事に元気な子どもを出産しました。葉酸の摂取は、妊婦の貧血予防にもつながります。

さらに、葉酸の不足は妊娠中期から後期にかけて起こる「妊娠高血圧症候群」の原因にもなります。母子の健康のために、妊娠中期以降も葉酸を意識して摂ることをおすすめします。

授乳中も葉酸は必要である

さらには、妊娠中に限らず出産後も葉酸が重要になります。

日本人の食事摂取基準(2015)によると、18〜49歳までの女性の葉酸推奨摂取量は、1日240μgです。そして、妊婦の推奨摂取量は440μgですが、授乳婦についても推奨摂取量が340μgとなっています。

【葉酸の推奨摂取量】

  • 18歳以上の女性:240μg
  • 妊婦:440μg
  • 授乳婦:340μg

これは、母乳の原料である血液を作るために、造血ビタミンである葉酸が必要だからです。

そして授乳中の葉酸不足は、母乳に影響を与えるばかりではありません。葉酸は細胞分裂を助ける働きがあるため、赤ちゃんの成長にとっても不可欠な栄養素なのです。したがって、発育の過程で葉酸が不足すると、赤ちゃんの心身の発達に遅れがみられます。

赤ちゃんは母乳を介して葉酸を摂取することになります。赤ちゃんの発育のために、継続して補助的にサプリメントを摂取することをおすすめします。

そのほか、葉酸には以下のような働きがあります。

  • 神経の修復
  • 月経前症候群の緩和
  • エネルギー代謝の改善
  • タンパク質を作る
  • 有害物質(ホモシステイン)を無毒化する

以上の点から、女性にとって葉酸は妊娠中だけでなく、赤ちゃんの健全な発育のために、出産後にも重要な栄養素であるといえます。

食べ物からだけの摂取は難しい妊婦の葉酸

それではなぜ、食物からの葉酸摂取と併用して葉酸サプリが推奨されているのでしょうか。その理由について、厚生労働省の報告書も踏まえながら、解説していきます。

まず、葉酸という文字には、「葉」とあるため、緑の野菜に多くの葉酸が入っているイメージが湧いてくる方は多いです。

実際、ほうれん草、ブロッコリーなどは葉酸を含む野菜です。しかし、緑の野菜以外の食べ物にも葉酸は含まれています。分類ごとに含有量の多い順に記載すると以下の通りになります。

【緑黄色野菜】

からし菜、みずかけ菜、なば菜、ほうれん草、グリーンアスパラガス、春菊、ブロッコリー、高菜、日本かぼちゃ、チンゲン菜

【山菜など】

ぜんまい、わらび、ふきのとう、カリフラワー、大豆モヤシ、白菜、くわい

【果物】

パッションフルーツ、アボカド、マンゴー、いちご、パパイヤ、オレンジ(ネーブル)、夏みかん

【根菜類】

サツマイモ

【豆類】

ささげ(乾)、大豆(乾)、そらまめ(乾)、調整豆乳、納豆

【木の実】

クリ

【動物性食品】

鶏レバー、牛レバー、豚レバー

【海藻】

あまのり(焼)

これらは、ほとんどがスーパーで手に入る食材です。これらを組み合わせ、毎日摂取していけば、何とか妊婦の葉酸推奨摂取量の440μgをクリアできるかもしれません。

ただし、レバーにはビタミンAが多く含まれています。ビタミンAを過剰摂取すると体内に蓄積し、赤ちゃんの顔などの先天異常につながることがあるため、食べ過ぎには注意が必要です。

さらに、日本人の食生活は欧米化になっているため、実際のところ食事だけで補うのは難しいです。そして、葉酸を効率よく摂取するにはコツがあります。このため、方法を知っていないと葉酸摂取量をクリアするのは難しいです。

妊娠中の葉酸サプリメントがおすすめの理由

葉酸には、実は弱点があります。それは、熱に弱く、水に溶けやすい水溶性ビタミンであるということです。

葉酸は熱に弱く、調理に際して50パーセント近くが分解する。また、水溶性のためにゆで汁に溶出するため、調理によって失われやすい。(厚生労働省の報告書)

葉酸は熱に弱く、50%が分解されてしまいます。また、水に溶けやすいので、ゆで汁に溶け出してしまいます。そのため、生食やスープとして食すことが推奨されています。

ただ、調理をする上で、熱もしくは水のどちらかは使用しますので、葉酸が失われてしまうのを完全に防ぐのは難しいといえます。

では、熱や水を加えず生食する場合の葉酸の吸収率はどうでしょうか。先ほどの「葉酸を含む食物の一覧」から生食できるものを、葉酸の多い順に書き出すと以下の通りになります。

  • パッショッンフルーツ
  • アボカド
  • マンゴー
  • いちご
  • パパイヤ
  • オレンジ(ネーブル)
  • 夏みかん

生食できるものの多くは、このように果物であることがわかります。食べやすいのは利点ですが、葉酸が含まれているからといって大量に摂取すると、糖分過多など他の問題が出てきます。

また、生食をしたからといって、100%栄養分を吸収できるわけではありません。厚生労働省の同報告書をまとめると、以下のようになります。

葉酸には2種類あります。一つは食品中の葉酸(folate)です。もう一つは栄養補助食品中の葉酸(folic acid)です。

栄養補助食品(サプリメント)に含まれる葉酸は、体内で85%を吸収できます。食品中に含まれる葉酸が体内で吸収できるのは、50%程度と見積もられています。

サプリメントよりも、食品から摂る葉酸の方が栄養素として吸収しにくいのは、代謝の過程にさまざまな段階があるためだと考えられています。

つまり、果物を生食したとしても、50%の栄養分が損なわれるというわけです。

以上のことをまとめると、葉酸を食事からすべて補おうとすると、たとえ生食であっても代謝の過程で50%程度が失われるため、葉酸は完全摂取の難しい栄養素ということになります。

したがって普段の食事からの摂取を基本とした上で、「サプリメントを補助的に使う」という方法によって、楽にストレスなく葉酸を取り入れることができます。

葉酸サプリのメリットは、効率的に体内で吸収できること

先に記したように、食品から摂取した葉酸のうち体内で吸収できるのは50%程度です。一方でサプリメントから体内に吸収できる葉酸は85%だと見積もられています。つまり、食品と比較して葉酸サプリからの摂取の方が、1.7倍効率よく葉酸を吸収できることになります。

ただし、食品よりも葉酸サプリが効率的に体内で吸収できるからといって、葉酸サプリを摂取すれば安心かというとそうではありません。やはり、食べ物そのものから摂ることが、安心・安全のためには一番大事です。

その点について、厚生労働省の同報告書でも以下のように記載されています。

各栄養素の摂取は日常の食生活によることが基本となるものであり、安易にいわゆる栄養補助食品に頼るべきではない。

では、実際のところ葉酸サプリを飲むとき、具体的にどのようなことに気を付ければよいのでしょうか。摂り過ぎはあるのでしょうか。基本的な摂取量や飲み方のポイントについて解説します。

摂取量を守り、摂り過ぎに注意する

日本人の食事摂取基準(2015)によると、葉酸の推奨摂取基準には耐容上限量が設定されています。耐容上限量とは、過剰摂取による健康被害を回避するために設けられた値です。この値を超えた場合、健康被害が出る可能性があることを示しています。

実際の耐容上限量(1日あたり)は以下のようになっています。

18歳~29歳30~69歳70歳以上
900μg1000μg900μg

葉酸は水溶性ビタミンであり体内に蓄積できないため、過剰分は尿から排出されると考えられています。要は、たくさん摂取したとしても尿として体外に出ていくのです。

しかし、なぜ上限が定められているのでしょうか。その点について、厚生労働省の同報告をまとめると、以下のようになります。

いわゆる栄養補助食品は、簡単に摂取できるため過剰摂取につながることも考えられます。また、それらをたくさん摂りすぎるとビタミンB12欠乏の診断を困難にすることもあります。

医師の管理下にある場合を除き、葉酸摂取量は1mgを超えるべきではありません。そして、栄養補助食品を利用することが、日常の食生活をおろそかになることにつながらないよう配慮することが大事です。

食事で摂取するよりサプリの方が容易であるため、摂り過ぎてしまうことへの注意を呼びかけています。「食事でバランスをとり、サプリで補う」という考えの重要性がここでも伺えます。

一方で、葉酸による過剰摂取の心配はないとする見方もあります。ただ、過剰摂取すると発熱、蕁麻疹、紅斑、かゆみ、呼吸障害など葉酸過敏症を引き起こす可能性が懸念されています。

また、「妊娠後期に葉酸サプリメントを過剰摂取すると、子どもが喘息になる率が1.26倍高かった」というオーストラリアの報告もあります。

葉酸はたくさん摂れば摂るほど良いというわけではないため、食品からの摂取を基本とした上で、葉酸サプリに記載されている摂取量を厳守するようにしましょう。

葉酸塩を葉酸に変換するため、ビタミンも補う

前述のように、葉酸には食品中の葉酸(folate)と合成型の葉酸(folic acid)の2種類があります。そして、食品中の葉酸は天然の葉酸塩です。

サプリメントに含まれる合成型の葉酸は、実は体内でそのまま吸収されるわけではありません。肝臓内でのいくつかの代謝の過程が必要不可欠であり、吸収のためには肝臓や小腸が健全であることが大事です。

さらに、葉酸を体内に吸収するにはビタミンB2、B3、B6、B12、Cなどのビタミンが必要となります。例えば以下のように、ビタミン類の記載がある葉酸サプリメントがおすすめです。

サプリメントを選ぶ際には、葉酸の働きを助けるビタミンが配合されている葉酸サプリを選択しましょう。

まとめ

なぜ、妊娠中に葉酸が重要なのでしょうか。それは、生まれてくる赤ちゃんの健全な発育と妊婦の健康のためです。

葉酸摂取がなければ神経管閉鎖障害のリスクが高まります。また、出産まで継続服用することで、妊婦の貧血や妊娠高血圧症候群のリスクが低減します。

そのために葉酸サプリメントを欠かさずに、食事と併用して摂取することがおすすめです。このとき、葉酸サプリメントの摂取量を厳守しましょう。また、摂り過ぎに注意する必要があります。

これらを意識したうえで、食事から葉酸を摂りながらも、補助的にサプリメントを活用することが妊婦にとって重要です。